紫外線反射剤と空の色

前々回は、日焼け止めには紫外線吸収剤、紫外線反射剤の2つが含まれていること、また、そのうちの紫外線吸収剤についてまとめました。

紫外線吸収剤は、ベンゼン環を含む有機材料からなり、ベンゼン環が基底状態から励起状態になることにより光エネルギーを吸収する、ということでした。

今回は、もう一つの材料、紫外線反射剤(紫外線散乱剤ともいいます)についてまとめてみようと思います。

紫外線反射剤(紫外線散乱剤)とは?

紫外線反射剤は、無機粉末です。物質名としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム,酸化鉄などが挙げられますが、このうち特に、一次粒子径が100 nm以下の微粒子酸化チタンと微粒子酸化亜鉛が使用されています。

ポイントは、

1.無機酸化物であること

2.ナノオーダーの微粒子であること

3.酸化チタンと、酸化亜鉛が使われていること

であるということです。

酸化物とは?

なぜ酸化物が使用されているのでしょうか?

それは、酸化物はすでに酸化されたものであり、そしてそれ以上酸化されないので、逆説的に安定していると言えるからなのです。

以下の図を見てみましょう。これは金属の酸化のしやすさ(イオンになりやすさ)を表したもので、イオン化傾向といいます。

図はこちらからお借りしました→https://pikuumedia.com/rika3-28/

図を参照すると、酸化に最も強い金属を選ぶとすると、イオンになりにくい金とかプラチナになってしまいます。そのような貴金属を顔や体に塗りたくっていたら、日焼け止めの単価が高くなってしまいます。そのため、どうせ酸化してしまうなら、ええい、ままよ!先に酸化させてしまえ!ということで、金属を酸化させたものを使用しているのです。そうすることで、容易に変化せず、かつ安価な日焼け止めを提供することができるというわけなんですね。

光を反射するとはどういうことか?

酸化チタンと酸化亜鉛はどちらも白い粉末なので、そのままでも白色顔料として使用できます。先ほどの金の例を挙げると、金それ自体に色がついているのでよろしくないのです。

また、色が白い、と言うことは、可視光線を吸収せずに散乱する、と言うことを意味しています。

ここで、「色が見える」ということはどういうことなのかを考えてみましょう。

この世界で光を受けて見える色というのは、物体の表面で光の一部が吸収され、その残りが散乱されて色として認識されたものです。光に照らされた物体の色を「物体色」といいます。

例えば、リンゴは赤いですね。リンゴは、自ら赤く発光しているわけではなくて、太陽光から放射される可視光線の赤以外の波長を吸収し、赤色の波長を反射・散乱しているために赤く見えるのです。

図はこちらからお借りしました→https://www.chuden.co.jp/kids/denkipaper/2007/634/issue03.html

そして、吸収した波長はどうなるかというと、熱に変わります。夏の暑い日、黒いTシャツを着ていると暑いと感じるのは、黒という色が全ての波長を吸収し、熱に変えるからです。その反対に、白色粉末は光を吸収せず反射してしまうんですね。

紫外線反射剤は、このように物理的に光そのものを反射させるので、紫外線A波からB波までの幅広い波長の光に対応することができます。

紫外線吸収剤のように熱を吸収、放出しないので、肌への刺激がありません。ノンケミカルと称される日焼け止めでは、紫外線吸収剤不使用を謳っていたりします。

また、紫外線吸収剤は、紫外線を浴びている間はずっと基底状態になったり励起状態になったり変化しているので、時間がたつと壊れてくるものもでてきます。壊れてしまうと効果がなくなってしまいます。日焼け止めは定期的に塗り直さなくてはいけないというのは、こういう理由からです。

紫外線反射剤の場合は、汗などで落ちない限り、効果が持続します。このような持続時間の長さも大きな利点です。

光の散乱と粒子径の関係

とまあ、以上が、日焼け止めメーカーの公式ホームページなどでよく見られる説明になります。

ん?でも白い色の服って紫外線を通すっていいますよね。よく日傘は黒色のほうがいいっていうじゃないですか。白って可視光線は反射するけど、紫外線を通してしまうのでは???

調べてみたら、どうやら粒子の大きさが重要となっているようです。実は、光の散乱は粒子の大きさによって散乱の種類が変わるのです。

光の波長よりずっと小さい粒子による散乱を、レイリー散乱といいます。

これは、短い波長が散乱されやすいという性質を持っています。レイリー卿という人が、散乱光の強度は波長の4乗に反比例する、と言うことを突き止めたのです。紫外線というのは可視光線よりも波長が短いものでしたね。ですので、このサイズの粒子こそが紫外線を散乱するにはもってこいのサイズであるということです。およそ数十nmほどになります。

光の波長と同程度の大きさの粒子による散乱を、ミー散乱といいます。

ミー散乱は、短い波長だけでなく、すべての波長の光が同様に散乱するため、色は白く見えます。

そのため、ミー散乱を起こす粒子径の時に可視光における光拡散効果が最も高いとされ、白色顔料として使用される場合は、この大きさのものが選択されるのです。粒径としてはおよそ粒径200~300 nmです。

図はこちらからお借りしました:http://optica.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-cdff.html

まとめると、

日焼け止めで使用されるサイズは、数十nmほどの微粒子が使用され、レイリー散乱により紫外線を散乱する。

白色顔料としての用途に適するサイズとしては、数百nm程のサイズであり、ミー散乱により可視光を散乱する。

ということになります。

また、日焼け止めとしてこのサイズのものを使用することで、酸化チタンや酸化亜鉛が粉体であるが故の粉っぽさや白浮き、きしみ感を防止する効果も期待できます。粒子の直径が小さくなると、白色顔料で見られる遮蔽効果がうすれて透明性が高まり、粒子が小さいことで流動性が増すからです。

参考資料はこちらです:

https://www.soc.co.jp/wp-content/themes/soc/img/csr/ultraviolet.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/adhesion/46/9/46_9-5/_pdf

なんで空は青いの?

レイリー散乱とミー散乱について、例えば、自然界で起こっていることで説明してみましょう。

大気は、窒素や酸素からなっています。それらの分子は光の波長よりもとても小さいので、レイリー散乱が起こります。すると、波長の短い青色が散乱を起こし、その結果として空は青く見えるのです。そして、大気中の水蒸気は光の波長と同程度の大きさのため、ミー散乱が起こり雲が白く見える、というわけなのです。

雲の隙間から光が漏れてできる光の柱を「天使のはしご」といいいますが、あれもミー散乱によるものです。牛乳が白いのも、成分である脂肪球が光の波長と同等の大きさなので、ミー散乱で説明できます。どちらもチンダル現象として有名ですね。

興味のある方は、こちらのサイトに詳しく説明されていますのでご参照ください:

http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q25.html

日焼け止めの粒子径の話からはじまって、空の青さや雲の白さまで説明できてしまうなんてなんと驚くべきことでしょう。世界は謎と驚きに満ちあふれていますね!

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