回復しつつあります
レバレッジ特許翻訳講座の講座ビデオ「3180_翻訳者の健康管理」で本ブログをとりあげて頂きました。このビデオを拝聴する前でしたが、病院を変えて大学病院の先生に診断してもらうことになりました。おかげさまで現在、ようやく抗生物質の服用から卒業することができました。長かったー!
しかし、このときの痛みと苦しみが免疫系に興味を持つきっかけとなりました。これにより失ったものもたくさんありましたが、通院期間中は病院の先生に薬や免疫についてたくさんの質問ができたので、いい勉強になりました。
転んでもただでは起きぬ女、それがわたしです。受領は倒るる所に土を掴め、なんていいますものね。翻訳者たるもの、何時いかなる時でもマクロファージのように知識に対しては貪欲でありたいものです。
とはいえ、フリーランスは体が資本です。それを肝に銘じておきます。
微生物と人間
さて、人の体には、無数の微生物が寄生しています。よく知られているのは腸内細菌で、腸には多種多様な菌が存在し、絶妙なバランスを保っています。
もちろん、腸だけでなく、口の中や鼻の中、お肌の上にもそのような微生物は存在しており、人間の全ての菌の数を合わせると、人間の細胞の数を超えると言われています。数で言うと百兆個にもなり、体重60kgの人だと、微生物だけで約1kgもの重さになるそうです。わたしたち人間は、多種多様な微生物の中に「まみれて」生きているといっても過言ではないでしょう。
そのなかには、良い働きをする微生物も当然ながら存在します。腸内の善玉菌はもちろん、チーズやヨーグルト、ワインや納豆、日本酒など、発酵食品には欠かせない細菌もあります。このように、人類は微生物とうまく共存して生きてきました。
大部分の微生物は、すべてが害をもたらすものではなく、普段は人間の体内や体外でおとなしくしています。そのような菌は、常在菌といわれます。そのなかには日和見菌といって、免疫が下がったときに悪さをするものもあります。
病原体とその種類
ここからは、人体に有害な微生物についてまとめていきたいと思います。微生物のうち、病気の原因となる可能性のあるものを病原体といいます。
病原体は、以下の4つのグループに分けることができます。
2.ウイルス
3.真菌
4.寄生虫
これらの微生物は、大きさも、構造も、増殖のストラテジーも違うので、当然有効となる薬も異なってきます。
細菌には、ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌などが挙げられます。これら細菌は、細胞分裂で自己増殖していきます。ウイルスと違って、宿主の細胞外で増殖していきます。増殖をするのでDNAを持ちますが、核の中に収まっておらず、細胞質の間をDNAが漂うように存在しています。このような細胞を持つ生物を、原核生物といいます。
逆に、人間の細胞のように核のなかにDNAがある生物を真核生物と言います。

左が原核生物、左が真核生物の細胞です。私たち人間の細胞とかなり違うことがわかりますね。
https://biochemanics.wordpress.com/
細菌の治療薬としては、抗菌薬(抗生物質)が用いられます。抗生物質は、細菌と人間の細胞の構造の違いを利用したものでもあります。そのため、抗生物質が効くのは細菌だけなのです。こちらは次回にまとめたいと思います。
ウイルスは、インフルエンザ、ノロウイルスなどでおなじみですね。
ウイルスは、カプシドという殻と、その中に入っている核酸で構成されています。核酸とカプシドを併せたものをヌクレオカプシドと呼びます。ヌクレオカプシドとは、要するにDNA(またはRNA)が入ったカプセルみたいなものです。構成がシンプルなので、細菌や真菌、寄生虫などと比べるとサイズは最も小さいです。このように、細菌と構造や仕組みが違うので、抗生物質は効きません。
そして、ウイルスは単独では増殖できないので、人の細胞の中に侵入し増殖します。遺伝子組換え技術では、このシンプルな構造を逆手にとって、カプシドの中にある核酸を無毒化し、外来遺伝子を導入するための乗り物(ウイルスベクター)として利用されています。

図は、しばしばウイルスベクターとして使用されているサイトメガロウイルス(CMV)というウイルスの構造です。カプシドの外を囲っているものは、脂質でできたエンベロープです。そのため、ヒトや細菌のような脂質二重膜を持っていません。また、エンベロープが無く、ヌクレオカプシドのみのウイルスも存在します。
真菌とはカビのことです。ご存じの通り、菌糸が成長していくことで増殖します。真菌の細胞には、細菌と違って核があります。核があると言うことは真核生物なので、人間に近い細胞の構造をとります。例としては水虫が挙げられます。
寄生虫は、例としては、マラリア、アニサキスなどです。ちなみにマラリアは蚊に寄生したマラリア原虫によるものです。
今回は、細菌による毒素について話を進めたいと思います。
細菌の構造
細菌は、さらに、グラム染色法により、グラム陽性菌とグラム陰性菌に大別されます。グラムとは、この染色法を考案したデンマーク人の名前です。
グラム陽性菌は、染色によって紫色に染まるもの、グラム陰性菌は、染色されないものを意味します。その染色されるかされないかの違いは、細胞壁の構造の違いによります。つまり、ペプチドグリカン層が厚いと、グラム染色されやすく、薄いと染色されにくい、といった違いです。
図を見てお分かりの通り、グラム陽性菌の細胞膜には、ペプチドグリカンの厚い層が存在しています。
「グリカン」は、多糖類(polysaccharide:ポリサッカライド)とも呼ばれ、糖分子が長くつながったものを意味します。五員環または六員環の糖が連なった高分子を糖鎖といいます。多糖類は、化粧品や食品などでしばしば増粘剤として使用されています。ゆえに、「ペプチドグリカン」というのは、ペプチドとそのような粘着質の糖鎖でできているということです。これが細胞を保護し、強度を保つ働きをしています。
一方グラム陰性菌は、細胞膜外のペプチドグリカン層は薄く、そのかわりにその外に外層があります。
外層は、リポ多糖(Lipopolysaccharide, LPSとしばしば省略されます)という、糖と脂質からできている物質で構成されています。
リポ多糖の構造はこちらです。

https://www.macrophi.co.jp/lps/1-1.html
上からO抗原、コアオリゴ糖(コア多糖ともいいます)、一番下がリピドAです。毒素を持っているのは、このリピドAになります。
ご覧の通り、O抗原、コアオリゴ糖は糖鎖です。一方、リピドAは脂質でできており、細菌の脂質二重層に入り込む形で存在しています。
ところで、細菌の産生する病原性物質(細菌毒素)は
菌体外に分泌される外毒素(エキソトキシン)と、
細胞が破壊されてはじめて放出される内毒素(エンドトキシン)
に大別されています。
リピドAは、内毒素の構成成分になります。先ほど、グラム陰性菌は、ペプチドグリカンを持たず、そのかわりLPS(外層)があると説明しましたね。LPSにはリピドAがあります。つまり、リピドAはグラム陰性菌特有のものなのです。したがって、LPSのないグラム陽性菌には内毒素はありません。
そしてこのリピドAによる内毒素が私たち人間の細胞表面にあるToll様受容体というシグナル伝達受容体と結びつき、免疫システムを刺激して単球やマクロファージなどを活性化していくこととなります。

http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_88/
図中、馬蹄の形をしたものがToll受容体です。
黄色ブドウ球菌について
私の足の指を爪周囲炎に至らしめた菌は、黄色ブドウ球菌という細菌でした。黄色ブドウ球菌は、グラム陽性菌です。この菌は、皮膚の表面や鼻腔内に存在するありふれた常在菌で、普段は悪さをしません。むしろ、皮膚を酸性に保つなどの良い働きをしています。宿主(つまり私のことです)の免疫力が弱っていると、傷から体内に入り、毒素を放出するのです。
ちなみに黄色ブドウ球菌の外毒素は、エンテロトキシンという毒素で、食中毒を引き起こします。よく、手にけがをした人が調理したものは食中毒になるので気を付けましょうと言われますね。これは、手のけがの部分に黄色ブドウ球菌が繁殖している恐れがあるからです。
エンテロトキシンは熱に強いため、加熱して殺菌することができませんので、注意が必要です。これからの季節、このような食中毒にも注意したいところですね。
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