前回は、ペニシリンを代表とするβラクタム系抗菌剤と、グリコペプチド系抗菌剤についてまとめてみました。どちらもペプチドグリカンの前駆体D-ala-D-alaに選択的に結びつくことで、細菌の細胞壁を構成するペプチドグリカンの合成を阻害する、というものでした。
今回は、別の作用機序をもつ抗菌剤について見てみたいと思います。
・マクロライド系抗菌剤
・アミドグリコシド系抗菌剤
これらは、細菌細胞のタンパク質を合成するリボソームに作用して、細胞に必要なタンパク質の産生を阻害する、というものです。
リボソームとは?
リボソームを説明するには、遺伝子についてもすこし説明しなければなりません。DNAからタンパク質を合成する流れをざっくりと説明します。
タンパク質を合成するには、まず、DNAの塩基配列を、DNAを鋳型としてmRNA(伝令RNA)に写しとります(これを転写と言います)。そしてその塩基配列情報を元に、ペプチドを合成します。
どのように合成するかというと、まず、tRNA(運搬RNA)により、遺伝暗号にしたがってmRNAの塩基配列に対し相補的な塩基の組に対応するアミノ酸がリボソームに運び込まれます。遺伝暗号とは、塩基の組み合わせ3個(コドン)が1つのアミノ酸に対応しているものを解読したもので、コドンとアミノ酸を対応させるものになります。リボソームは、その運ばれてきたアミノ酸を重合してポリペプチドを生成します(これを翻訳と言います)。そのようにして細胞に必要なタンパク質が合成されていきます。

DNA structure and function, Genetic Engineering and Cancer
図中、赤いものがリボソームです。上下にある大小2つのユニットによってmRNAを挟み込んでいるのがわかりますね。1つのアミノ酸(青いつぶ)を運んでリボソームに結合しようと飛んできているのはtRNAです。
下図は遺伝暗号です。3つの塩基配列が1つのアミノ酸に対応しています。この遺伝暗号に従ってtRNAがアミノ酸を運んできます。


つまり、リボソームとは、mRNAやtRNAと共に作用して、DNAの塩基情報からタンパク質を作る細胞内の工場みたいなものということが言えます。また、リボソーム単体では、rRNAからのアミノ酸を、ペプチドに重合して伸張させる、という働きをしているということがお分かりになるかと思います。
では、リボソームはどのようにしてアミノ酸を重合させてペプチドにするのでしょうか。リボソームの構造を更に詳しく見ていきましょう。
リボソームは以下の様な構造になっています。
リボソームは、大サブユニット(大顆粒)と小サブユニット(小顆粒)に分かれています。生物学基礎ホームページ
リボソームは、さらに以下の様な部位によって構成されます。
A部位:AはアミノアシルtRNAを表しています。tRNAの末端にアミノ酸が付加されたものをアミノアシルtRNAと呼びます。A部位にはアミノアシルtRNAだけが入れます。
P部位:PはペプチジルtRNAの略です。ペプチジルtRNAは、末端にペプチドが付加されたtRNAを意味しています。A部位と同様、P部位にはペプチジルtRNAしか入れません。
E部位:出口を意味しています。アミノ酸もペプチド鎖も結合していないtRNAだけがリボソームから出て行くために一時的に入る部位です。
まず、アミノアシルtRNA合成酵素により、対応するtRNAにアミノ酸がエステル結合され、アミノアシルtRNA(アミノ酸が結合したtRNAのこと)が合成されます。
アミノ酸を付加されたアミノアシルtRNAは、まずA部位に入ります。図中、P部位にはペプチジルtRNA(図中③)、A部位にはアミノアシルtRNA(図中④)が結合しています。
次に、元から入っていたP部位にあるペプチジルtRNA(ペプチドが結合したtRNAのことです)と、A部位のアミノアシルtRNAがペプチド結合します。
大サブユニットのP部位には、ペプチジルトランスフェラーゼセンター(PTC)という、ペプチドを転移させる酵素(ペプチジルトランスフェラーゼ、ペプチド移転酵素ともいいます)がある活性部位があります。そのペプチジルトランスフェラーゼにより、P部位とA部位の隣り合ったペプチド同士がペプチド結合でつながり、P部位のペプチド鎖がA部位のアミノアシルtRNAのアミノ酸の方に付加されます。
すると、A部位のアミノアシルtRNAはペプチジルtRNAになりますので、A部位からP部位に移動します。と同時に、もとのP部位にあったペプチジルtRNAはペプチド鎖が取れるので、E部位に移動したのち、離脱していきます。さらにA部位にまたアミノアシルtRNAが来て・・・というのを繰り返していくと、ペプチド鎖が次々に伸張されていきます。

リボソーム部位を阻害するということは、細胞に必要なタンパク質が翻訳されないということを意味します。それにより細菌の増殖を阻害することができるのです。
また、リボソームは、このようにタンパク質を合成するものなので、特定のタンパク質、例えば抗体などを細菌である大腸菌のリボソームに作らせる、などということも可能になります。これはおいおいまとめていきたいと思います。
リボソームの構造と働きがわかったところで、抗生物質のお話に戻りましょう。
真核生物、つまり人間のリボソームは、大サブユニットが60S、小サブユニットは40Sで構成されています。一方、細菌のリボソームは大サブユニットが50S、小サブユニットが30Sです。抗菌剤が作用するのは細菌のリボソームの30S又は50Sですので、人間のリボソームに作用して毒性を示すことはありません。
リボソームの働きを阻害する抗菌剤
テトラサイクリン系抗菌剤は、小サブユニットの30Sユニットに結合して、アミノアシルtRNAがリボソームに結合するのを阻害します。
テトラサイクリン系抗菌剤の構造式はこちらです。”tetra”は「4」を意味し、”cycl-”は「環」を意味します。構造式を参照すると、名前の通り4つの六員環を持つ物質であることがわかりますね。テトラサイクリン系抗菌剤は、TC系と略されることもあります。
一方、リボソームの50Sサブユニットに作用するのが、マクロライド系抗菌薬です。マクロライド系抗菌薬は、50Sサブユニットのペプチジルトランスフェラーゼの反応を阻害します。
マクロライドの活性は化学構造上のマクロライド環に由来しています。”macro-”は「大きい」を意味し、”-olide”はラクトンを意味します。ラクトンは、環状で酸素原子1個と、カルボニル基を含む物質のことです。とくに、12員環以上の大環状ラクトンをマクロライドといいます。
マクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシンは、14員環のラクトン環と2つの糖(クラディノース:下図下方とデソサミン:下図上方)を持った構造をしています。赤い部分がマクロライド環です。このように、マクロライド系抗菌薬は、分子構造が大きいと言うことも特徴に挙げられます。14員環系、15員環系、16員環系と環の大きさによって分類することができます。
アミドグリコシド系抗菌薬は、アミノ糖を構成成分とし、30Sに作用します。

図は、代表的なアミドグリコシド系抗菌薬、ゲンタマイシンの構造式です。
リボソームの30Sの活性部位には RNA分子スイッチという、塩基対の立体構造を確認する箇所があります。アミドグリコシド系抗菌薬は、このスイッチに特異的に結合して、正常なタンパク質合成を妨げます。スイッチ自体を壊して、正しい塩基対でないものを合成させてしまうということですね。

そのほかに、ニューキノロン系抗菌薬というのもあるのですが、リボソームに作用せず、細菌細胞の遺伝子におけるDNAジャイレーヌというところに作用するものなので、次回まとめたいと思います。
蜂窩織炎、その後
先週は、患部に膿と発熱があったため、念のため抗生物質を再度服用ということになりました。今週は採血をしてCRPの値を見てもらいました。CRPというのは、C反応性タンパクのことを意味します。これは、体内に炎症が起きたり、組織の一部が壊れたりした場合に現れるタンパク質のことで、炎症の有無を調べるためにこの値を参照します。
私のCRPはどうだったかというと・・・0.02mg/dLでした。0.30mg/dL未満が基準値なので、もう炎症反応はないということです。従って抗生物質の投与はこれで終了です。ウェーイ!
実は、抗生物質は腸内の善玉菌も殺してしまうため、ずっとおなかの調子がひどかったのです。一応整腸剤も出して頂いていたのですが、腸内細菌も細菌には違いありませんので、良くも悪くも抗生物質の作用を受けてしまっていたんですね。
抗生物質からようやく解放されたものの、まだ切開した傷口から多少膿が出ているので、血管拡張剤としてビタミンEを処方されました。また、傷口の周囲の皮膚がどす黒く変色してしまいましたので、ビタミンCとトラネキサム酸も服用しています。
しかし、実はこの3つ、美容にめちゃめちゃいいのです。これから非モテ系美容ブロガーとしてやっていきたいとも思っていますので(笑)、これもいつかまとめたいと思います。おかげで肌の調子はすこぶるいいです。靴が履けないため3ヶ月以上もまともに外出できていないので心配されたりしますが、肌がつやつやしているのでみんなにびっくりされます。ははは。
次回は私が毎日服用していた抗生物質と絡めて、βラクタマーゼの話とか、耐性菌の話とかができたらいいなって思っています。

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