メラニン生成-細胞間のメラノソームの受け渡し

メラノサイトからケラチノサイトへ

前回は、メラノサイトで作られたメラノソームを、メラノサイトの樹状突起の先端まで輸送する所までをまとめました。

そこは、細胞の中心から外側に向かう微小管、細胞膜近辺にあるアクチンフィラメントという、絶えず重合と加水分解を繰り返すダイナミックに変化する通路があり、その上を、積荷を抱えた分子モーターが、生体エネルギーATPを消費しながら歩き回っている、というSFみたいな世界でございました。

それでは今回は、メラノサイトの先端にあるメラノソームを、ケラチノサイトへ受け渡す所をまとめてみようと思います。

ここまで説明してきたのは、メラノサイト内部で起こっているお話でした。しかし、メラノサイトとケラチノサイトとは、別個の細胞です。その間で、物質はどのように受け渡されるのでしょうか。

界面活性剤と脂質二重膜

まずは、細胞を覆う細胞膜というのは何でできているのかを考えてみましょう。

細胞膜もそうですが、一般的な生体膜は―たとえば細胞内のミトコンドリアや、小胞体、ゴルジ体、リソソームなどを囲っている膜、もちろんメラノソームも―脂質二重膜という親水基と疎水基を併せ持つ脂質分子でできています。

膜を構成する脂質分子は、しばしばマッチ棒のようなモデルで表されます。

こんなやつです↓

日本石鹸洗剤工業会

見ておわかりの通り、この構造は、界面活性剤と同じものなのです。

マッチ棒の棒部分(尾部)は、直鎖の炭化水素がずらっと並んでします。これはアルカン、つまり鎖式飽和炭化水素炭素と呼ばれます。アルカンのイメージとしては、ガソリンですね。原油を分留すると炭素の長さに応じて天然ガスになったり、ガソリンになったりします。それらは端的に言うと油であると言えます。また、炭素は互いに結合し、その余った手には水素が結合しており、分子同士の電気陰性度にあまり差がないため分極はしていません。そのため極性溶媒である水でなく油になじみます(これを疎水性といいます)。

マッチ棒の火薬部分(頭部)は、電気陰性度の高い酸素や窒素を含み、分極しています。こちらは極性がありますので、水になじみます(これを親水性といいます)。水というのは身近な物質ですが、同じく酸素を含んでいますので極性があるのです。

このように、親水性と疎水性を併せ持った性質のものを、両親媒性といいます。

そして言うまでもなく、私たちの体は水でできています。生体を構成する細胞もしかりです。そのため、脂質分子は水となじみやすい親水基を外側に向け、疎水基を内側にすることで、二重の膜が形成されるというわけなのです。

次に、脂質二重層を構成する分子の構造を見てみましょう。生体膜の脂質分子は、リン酸脂質になります。

リン酸脂質の分子構造↑

https://www.researchgate.net/figure/Schematically-depicted-polymorphism-of-phospholipid-aggregates-Aggregated-forms-with_fig1_252143129

よくみると、先ほど見た界面活性剤の炭化水素鎖は1本であるのに対し、上記のリン酸脂質は2本あります。しかも、1本は中程に二重結合があり、立体的にわずかに折れ曲がっています

この形の違いが、脂質分子が集まった時の形状を決定します。

界面活性剤の分子は、疎水性の尾部は直鎖の線状になっているので、頭でっかちです。そのため、図形的なモデルに置き換えて考えると、頭部を底辺にした逆円錐形(逆コーン型)として捉えることができます。

一方、リン酸脂質の分子は、疎水性の尾部は2本あり、微妙に折れているので、頭部に比べて出っぱりの差はありません。図形にあてはめると、円筒形(シリンダー型)になぞられます。

コーン型の界面活性剤と、シリンダー型のリン酸脂質が集まって「パッキング」されるとこうなります。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK26871/figure/A1868/?report=objectonly

界面活性剤は、水中では、幅の広い親水性の頭部を外側にするため、疎水性の尾部をくるむようにして集まり、球状になります。この状態をミセルといいます。

円筒形のリン酸脂質が集まると、水中においては親水性の頭部を外にして疎水性の尾部同士をくっつけるようになります。また、幅が同じものが並ぶので、横に広がって膜状になります

つまり、形状から見ると、界面活性剤はミセルの状態、リン酸脂質は膜の状態が安定した状態であると言うことができます。

面白いことに、脂質分子というのはこの分子構造を変えることで、様々な形態をとることができるのです。

https://www.researchgate.net/figure/Schematically-depicted-polymorphism-of-phospholipid-aggregates-Aggregated-forms-with_fig1_252143129

上の図では、緑色のところが親水基を示しています。親水基と疎水基のバランスの違いで、球形になったり環状になったりするのが面白いですね。水中ではなく油の中に入れると、疎水基が外側になります。

ちなみに、界面活性剤は、ミセルを形成する際に疎水性の尾部と汚れを結合させ、親水性の膜でくるむことで汚れを落とします。また、化粧品では水性成分と油性成分を乳化する際に界面活性剤を使用しています。これは後ほどまとめたいと思います。

また、壁を二膜にすることもできます。このような膜は、体内のpHなどのパラメータにしたがって膜内部の薬剤を放出するドラッグデリバリーシステムにも使用されています。

ケミカルな界面活性剤とバイオロジックな生体膜が、分子構造が若干違うものの、構造が似ているということは不思議な気がしますね。

輸送タンパク質

脂質二重層は、分子が小さく、疎水性のものはそのまま透過することができます。

しかし、親水性のものは極性があるので油の膜を通過できません。

そのため、細胞膜には脂質二重層だけではなく、膜を貫通するタンパク質が埋め込まれており、分子の大きい物質や親水性の物質の行き来を助けています。こういったタンパク質は輸送タンパク質膜タンパク質)といいます。

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/1556

こちらの記事のシグナル分子のレセプターで説明した通り、親水性の伝達物質は細胞膜を貫通するレセプターにより膜を通過する、ということでした。上の図では「受容体タンパク質」にあたります。

さらっとまとめると、輸送タンパクには濃度勾配による受動輸送と、前回説明したATPのエネルギーを使用して物質を行き来させる能動輸送があります。上の図では、「チャネルタンパク質」が受動輸送で、能動輸送が「イオンポンプタンパク質」にあたります。

エンドサイトーシスとエキサイトーシス

しかし、それよりも大きい物質、例えばメラノソームを輸送する場合は、これらのタンパク質では大きすぎて輸送できません。メラニンはチロシンを起点として重合したポリマーであり、その集合体がメラノソームですから、酸素分子や水などとくらべるととてつもなく大きいといえるでしょう。

その場合は、メラノサイトでエキソサイトーシス、ケラチノサイトでエンドサイトーシスが起こり、メラノソームが引き渡されます。

Exocytosis and Endocytosis

エキソサイトーシスとは、内部でできたタンパク質などの物質を膜に包んで外に分泌する作用のことをいいます。ホルモンの分泌などもこの作用によるものです。輸送したい物質は、細胞内のゴルジ体でリン脂質で包まれ、細胞壁に触れると、細胞壁のリン脂質とコーティングされているリン脂質が融合し、細胞壁と一体になり放出されます。上の図でいうと、上段のaにあたります。

エンドサイトーシスとは、輸送したい物質のところで細胞膜がくびれ、陥没し、その物質を包み込むように小胞が形成されて、細胞内に取り込まれる作用をいいます。上の図でいうと、下段のbです。

膜って面白いですよね。何かを通したり、ブロックしたり。また、このように壁を融合させて物質を放出したり、取り込んだりすることもできるのです。

これでようやくメラノソームがケラチノサイトまで到達しました。今回は長くなりましたのでここまでとします。次は、ケラチノサイトに到達したメラノソームを、微小管の上のダイニンが運ぶところをまとめたいと思います。

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