メラニンができるまで
前回は、紫外線が肌に到達した際に、私たちのお肌の中でどのようなことが起こっているのかを、特に細胞間のコミュニケーションにフォーカスしてまとめてみました。
今回は、その細胞間のコミュニケーションによってメラニンを生成する信号を受け取った後に、メラノサイトで何が起こっているのかをまとめてみようと思います。
メラノサイトは、表皮と真皮の境目の基底層にあり、紫外線などの刺激を受けてない時は紡錘形をしています。しかし、一度刺激を受けて活性化すると、アメーバのように形を変え、ちょうど木の枝を広げたような形をした樹枝突起と呼ばれる触手をたくさん持つようになります。

図はこちらからお借りしました:https://www.doctors-organic.com/merano/index.html
そしてここメラノサイトで、お肌を黒くさせるメラニンが生成されていきます。それでは、どのようにしてあの美肌の天敵、メラニンが生成されていくのでしょうか。
メラニンは、血中から供給されたチロシンというアミノ酸を元にメラノサイト内で作られます。


チロシン 一般的なアミノ酸の構造
チロシンの側鎖Rには、ベンゼン環にOH(ヒドロキシ基)のあるフェノールがついています。ヒドロキシ基は極めて反応性の高い官能基です。
生成されたばかりのメラニンは、無色のチロシンです。しかし、メラノサイト活性化因子(プラスミンなど)によりメラノサイト内の酵素であるチロシナーゼが活性化すると、チロシンは酸化されて黒色のメラニンに変わっていきます。
日焼けで肌が黒くなる原因は、このようにメラノサイト内の酵素、チロシナーゼによるチロシンの黒色化によってメラニンが生成されるためなのです。
ユーメラニンとフェオメラニン
先ほどのチロシンの化学構造は、チロシナーゼの酸化を起点として、以下の様に変化していきます。

チロシンは、チロシナーゼにより酸化されてドーパ、ドーパキノンと変化します。その後はチロシナーゼなしで酸化していきます。更に様々な段階を経て、酸化していくにつれ黒色化が進行し、重合してポリマー状となり、ついにメラニンへと変化します。
メラニンには、主に黒褐色の真性メラニン(黒色メラニン、またはユーメラニン)と、橙赤色の亜メラニン(フェオメラニン)の2種類があります。

図はこちらからお借りしました:http://www.wakunaga.co.jp/products/citreene/index.html
チロシナーゼによって酸化されたドーパキノンがシステイン及びビタミンCと結びつくと、ユーメラニンとはならずにフェオメラニンになります。フェオメラニンは、色が薄いためシミとして認識されません。
そのため、こちらの資生堂のサイトによると、表皮の場合、メラニンというとユーメラニンのみを指すようです:資生堂シミ予防研究所
ユーメラニンとフェオメラニンは、髪色を決める色素でもあります。髪の毛には皮膚よりも多くのメラニンが蓄積されています。
アジア系・アフリカ系の人種がなぜ黒髪なのかというと、このユーメラニンが多く存在するためです。一方、欧米系の髪にはフェオメラニンが多く存在しています。また、老化などによりこれらの色素のどちらもが不足するようになると、白髪になります。

図はこちらからお借りしました:https://www.kose.co.jp/shirosumi/bihaku/detail/02.html
それでは、更に詳しくユーメラニンとフェオメラニンの化学式を見てみましょう。


ユーメラニン フェオメラニン
※この部分だけではなく、図中の矢印の先にはポリマー構造が続いています。
フェオメラニンには、ユーメラニンには見られないシステイン由来のS(硫黄)があることが確認できますね。ちなみに、システインは、2つ結合するとケラチンについて解説した回で説明したジスルフィド結合を有するシスチンになります。


システイン シスチン
また、ユーメラニンとフェオメラニンの化学式をみておわかりの通り、どちらもベンゼン環がたくさんあることが確認できるかと思います。
実は、驚くべきことに、これが紫外線吸収剤のところで説明したような作用をもたらすのです!
こちらで説明した、ベンゼン環を思い出してみましょう。

図はこちらからお借りしました:http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q61.html
ベンゼン環があるということは、共役系(二重結合)があるということです。そのため、HOMOからLUMOへ遷移することで光エネルギーを吸収することができるのです。

図はこちらからお借りしました:http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q74.html
上記の図より、二重結合が増えると、HOMOとLUMOのエネルギー差が小さくなり、少ない光エネルギーでも吸収されるようになります。
つまり、メラニンとは、天然の紫外線吸収剤であるということができるのです。
シミができると憂鬱なものですが、このようなメカニズムは、紫外線のダメージから体を守るための、大切な生体反応の一つなのです。それは、生物が海から陸へ進出する際、生体が強烈な紫外線に曝されたときに、DNAを破損されないために必要なものだったのです。
逆に、メラニンの紫外線吸収能力を利用している商品もあります。人工的に生成したメラニンを、グラス部分に練り込んで「メラニングラス」と称し、サングラスとして販売されています。人間の知恵ってすごい。
メラノソームの成長
メラニンは、生成されたばかりのものではほんの小さな顆粒に過ぎません。そして、メラノサイトのどこにでも発生するわけではありません。メラニンは、メラノサイト内にある、メラノソームというラグビーボールのような形をした小胞のなかで生成され、その中に蓄積されていきます。
メラノソームの発達段階は、ステージⅠからⅣで分けられます。このように、メラニンが詰まってゆくにつれ、メラノソームは黒く変色していきます。

こちらを参照しております:メラノソームの形成・成熟・輸送の仕組み(東北大学)
メラノソームは、最初はエンドソームと呼ばれる、生体内でよく見られるような脂質二重膜でできており、その中にはPmel17(pg100)と呼ばれる構造タンパク質の繊維が入っています。その繊維が膜の中でシート状に形成され、ステージⅡのようなラグビーボール状になります(この段階ではメラニン色素は入っていません)。ここでできた骨格をプレメラノソームと言います。
その後、ステージⅢからプレメラノソームにチロシナーゼが輸送され、シートの繊維に沿ってメラニンが沈着及び貯蔵されていきます。そして、徐々に成熟したメラノソームへと成長し、ステージⅣになると、メラノソームはメラニンが目一杯にたまった状態となります。
ここまでくると、目に見えなかった小さなメラニン顆粒も、メラノソームとして顕微鏡で観察できるくらいの黒さとなってしまいます。

図はこちらからお借りしました:https://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_1020.html
メラニンでパンパンになったラグビーボール状のメラノソームは、メラノサイトの樹状突起の先端へと輸送され、そこからついにケラチノサイトへ受け渡されていきます。

図はこちらからお借りしました:https://www.doctors-organic.com/merano/index.html
次回は、このメラノソームの輸送メカニズムについてまとめてみようと思います。
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