メラニン生成-メラニンキャップの形成とまとめ

微小管の上のダイニン

今回は、ケラチノサイトに輸送されたメラノソームが、どのような作用を経てケラチノサイトから紫外線を防御するのかを説明してみたいと思います。

ケラチノサイトに侵入したメラノソームは、今度はケラチノサイトの微小管を通って核近くまで運ばれます。

微小管は、細胞の核から外側に放射状に伸びる動的な管です。微小管には、分子モーターのダイニンキネシンがいましたね。

今回は、細胞の周辺から核の中心に向かう方向に移動しますので、+から-方向への移動となります。

そのため、ダイニンがメラノソームを核まで運ぶことになります。

図中、微小管の下を歩いている方がダイニンです。「微小管の上のダイニン」って、「坂の上のポニョ」みたいでかわいいですね。

メラニンキャップとターンオーバー

その後ダイニンにより核の近くまで輸送されたメラノソームは、核の周りに傘を作るように集まります。これをメラニンキャップ核帽)といいます。ケラチノサイトの核はメラノソームに取り巻かれるので、紫外線からDNAによる損傷を保護することができます。

https://www.doctors-organic.com/merano/index.html

メラニンというのは、ただ物質的に傘を形成して紫外線が核に直接照射されるのを阻害するだけでなく、共役二重結合を含むため、天然の紫外線吸収剤として作用します。しかも、構造的に壊れてもすぐ再生することができます。そのため、優れものの日焼け止めであると言えるでしょう。

このメラニンキャップは、通常だと角化プロセスが進行するごとに分解されていきます。

通常、メラノソームは、外側の脂質膜から消化され、次に巨大なメラニンタンパク複合体が、次第に小さなメラニン顆粒に消化されていき、角層に至る頃には電子顕微鏡でも確認できなくなります。

しかし、ターンオーバーが正常でないと、そのまま皮膚表面までメラノソームが残ったまま色素が沈着してしまいます。

下の図は、正常なお肌と、ターンオーバーが乱れたお肌です。

こちらは、正常なターンオーバーによりメラニンキャップが消失した肌です。角化が進行すると同時に、メラノソームが分解されているのがわかります。

こちらが、ターンオーバーがうまくいっていないお肌です。メラニンキャップが残ったまま角化が進行してしまっています。

紫外線からDNAを守ってくれるのはありがたいのですが、いつまでもケラチノサイト内に残られるのも困ったもの。画期的な美白美容液と言われているポーラの「white shot」では、ケラチノサイト自体の力を強化するアプローチをとっています。そもそもメラニンになんか守ってもらわなくてもいい、私に傘なんかいらないわ!みたいな発想です。

同時に、ケラチノサイトのエネルギーを高めますので、ターンオーバーを促進し、メラニンの蓄積を押さえます。どのように強化するのかというと、ケラチノサイトのクエン酸回路を活性化するのです。

簡単に説明すると、クエン酸回路とは、ミトコンドリアマトリックス内の酵素によって起こる代謝反応で、その後同マトリックス内での電子伝達系、酸化的リン酸化を経て生体内の通貨と称されるATPを生成するものです。

まとめ

さて、これまで肌が紫外線を受けてからどのようなことが起こっているのかを見てきました。

非常に簡単にまとめると、メラニン生成のメカニズムは以下の通りになります。

1.紫外線を受ける

2.サイトカインがメラノサイトにメラニンを生成するように指示

3.メラノサイト活性化因子がチロシナーゼを活性化

4.チロシナーゼがチロシンを酸化して黒色化、メラニンが生成され、メラノソームに貯蔵される

5.メラノサイトが、メラニンが詰まったメラノソームをケラチノサイトへ輸送

6.ターンオーバーの乱れにより着色化

このプロセスを逆の視点から、つまりメラニン生成をどのように阻害したらいいかという視点で見てみると、

1.紫外線を避ける

2.サイトカインを阻害する

3.チロシナーゼの活性を阻害する

4.酸化したメラニンを還元する

5.メラノソームのケラチノサイトへの輸送を阻害する

6.ターンオーバーを正常化する

ということになります。美白のアプローチには様々なものがありますが、大雑把に分けると以上の点になるかと思われます。

美白やアンチエイジングの開発は日進月歩ですので、また新たなアプローチが発見されていくのかもしれません。とくに、メラノソームの輸送のメカニズムについては、まだはっきりと解明されていないようです。

また、いままでは、即効性のある、4.「酸化したメラニンを還元する」のアプローチがとられてきましたが、白斑(肌がまだらに白くなってしまうこと)などがあり、トレンドとしてはそれ以外の手法が多いようです。

少し前ですが、カネボウで同様の事件がありました。こちらは、3.「チロシナーゼ活性を阻害する」タイプのものでした。

https://www.kanebo-cosmetics.jp/information/report/

進化の過程からメラニンについて考えてみた

恒温動物ではメラノサイトといいますが、変温動物ではメラノフォアといいます。メラノサイトとの違いは、メラノサイトは基底層でしか存在しませんが、メラノフォアは細胞内を動き回ることができます。

両生類や、は虫類などでは、ホルモンや神経の制御を受けて、体の色を変化させます。

ちなみに「メラノ」というのはギリシャ語を派生とした言葉で、「黒」を意味しています。

魚類や両生類にはメラノフォア=黒色素胞(melanophore)だけでなく、黄色素胞(xantho-phore)、白色素胞(leucophore)など、様々な色素があります。カメレオンやカエルなどは、そのような色素を分散させたり、凝集させたりして外界の色に合わせて表皮の色を変化させているのです。

もし、人間の進化の過程で、体の色素が紫外線をブロックすることだけでなく、色素そのものを変えることで生き延びられるような環境で生存競争にさらされていたら、人間もこのような進化をしていたのかもしれませんね。ちょっと想像すると怖いですが。

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