バイオプリンティングと動物実験について

レバレッジ特許翻訳講座のビデオセミナーの対訳シリーズ「手術シミュレーション用軟質血管モデル」を細々と拝聴しております。3Dプリンターの特許のシリーズです。

バイオの分野では、3Dバイオプリンティングというものがあり、日本では富士フイルムやリコーといったメーカーが開発を進めています。今回は3Dバイオプリンティングについて調べてみました。

バイオプリンティングとは?

通常の3Dプリンティングは、コンピュータ上で作った3Dデータを設計図として、断面データを一層ずつ積み重ねることで3次元の構造体を作製します。

http://d-engineer.com/3dprint/3dprintergenri1.html

簡単に言うと、バイオプリンティングは、3Dプリンタのインクが細胞に置き換わったようなものだということです。もう少し正確に言いますと、生きた細胞に、細胞外マトリックスの代わりとなるゲルを加えたものをバイオインクといいますが、これがバイオ3Dプリンターにおけるインクとなって、3次元の構造体を形成します。

https://www.sigmaaldrich.com/japan/materialscience/3d-printing-materials/3d-bioprinting-bioinks.html

バイオプリンティングを使用すると、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や、患者由来の幹細胞を活用して、その患者の細胞でできた臓器や皮膚を作るといった再生医療が可能になります。また、医薬品の安全性、毒性の評価なども、動物ではなく人間の細胞を使って行うことができます。

臓器移植にバイオプリンティングで作製された臓器を使用した場合は、自分の細胞由来の臓器のため、免疫反応による拒否反応がなく、安全に臓器移植を実施することができます。また、医薬品の評価に、動物実験の代わりに人間の細胞を使用することもできるため、ヒトに対する安全性が更に増すこととなり、その上、動物実験による動物への無用な苦痛を取り除くこともできるというのです。

さらに、医薬品や医療分野だけでなく、化粧品分野においても、バイオプリンティングで人間の皮膚のモデルを作ることが可能となっています。

バイオプリンター大手のオルガノボ(米)の特許WO2016073782 (A1)   では、バイオプリンティング技術で、真皮、表皮、皮下脂肪のバイオインクを作製し、層状に積み上げて、人間の皮膚のモデルを作製しています。

https://www.doctors-organic.com/hyouhi/index.html

以前こちらで勉強した皮膚の図です。これがバイオプリンターでできてしまうのです。繊維芽細胞を含有させたバイオインクによる真皮と、メラノサイトやケラチノサイトを含有させたバイオインクによる表皮を層状に「プリント」することで、三次元人工生体皮膚組織が再現することができるそうです。

オルガノボ特許 WO2016073782 図3より

これらの人工皮膚は、化粧品や洗剤などの毒性検査に使用されるのはもちろんのこと、さらに、免疫細胞のランゲルハンス細胞や、ガン細胞などをバイオインクに含有させることで、経皮からのドラッグデリバリーのスクリーニングなどにも使用することができます。もちろん、この作製された皮膚を、患者の細胞を使用した皮膚移植片としても使用することもできます。

こちらは共同出願人がロレアルですので、動物を代替するためのヒトの皮膚の3次元モデルというものは、化粧業界でも常識となりつつあるのかもしれません。

動物実験に関して思うこと

バイオ系の特許を読むと、マウスをsacrificeするという表現を良く目にします。マウスに関しては、ある特定の遺伝子を欠損させたノックアウトマウスや、ある特定の病気を発症する疾患モデルマウスなどが商品として実際に売られています。また、人間の皮膚に対して行う試験には、無毛のヌードマウスや、ヘアレスラットが使用されるようです。

安全性が欠如した商品を売るということは倫理に反することなので、動物実験は、避けて通れないものなのかもしれません。しかし、人間のお金儲けや便利さの追求のために、たくさんの動物の命を無駄に消費すると言うことは許されざることです。

ところで、我が家には二匹のネコがいます。どちらも捨てネコで、一匹は野良に餌をやり過ぎて繁殖しすぎてしまったお家から、もう一匹は知り合いが拾ってきたものを譲り受けました。

前者の方は、片目が塞がり、のみだらけで、まだほんの数週間くらいしか生きていない、手のひらにのるくらいちっぽけな小さな子ネコでした。しかし、その小さな体は暖かく、たくさんの空気を吸いたいと言わんばかりに、あばらの浮き出たおなかを精一杯動かしていました。小さいながらも、必死で生きようとしているのが手のひらを通して伝わってきました。この子を保護することを決め、すぐに塞がった片目を治療し、栄養のある食べ物をあたえ、安心して眠れる寝床を用意しました。そして今では元気な美しいネコに成長し、野生の王よろしく頭をもたげ、鷹揚に誇らしげに家中を歩き回っています。

私がこの子を見つけていなかったら、と思うとぞっとします。今ごろ餓死しているか、カラスの餌食になっていたのかもしれません。

こちらは世界最小の野生の猫、サビイロネコです。人間の飼っているイエネコではなくれっきとした野生の山猫です。

ネコってすごいですよね。自然界ではその俊敏さと鋭い爪と牙で他の動物を圧倒し、人間界ではそのかわいさで人間を圧倒しています。いまや「かわいい」というのは、彼らの有する最も強力で、平和的な武器なのです。実はネコが一番地球に適応して生きている生き物なのでは?

汝、貪るなかれ

動物に関しては、肉食はどうなんだとか、捕鯨の問題とか、いろいろな論点・争点があるのですが、結局は、命を無駄にしないということが一番重要なのではないでしょうか。残酷なようですが、私たちの先祖は、たくさんの動植物の命を奪って命をつなぎ、動物たちのすみかである森を焼き払って畑にし、現在の便利で清潔な生活を手に入れてきたのです。生きることはきれい事ではありません。人間というのはつまり、動物の肉を食らい、毛皮を剥ぎ、その油を燃料として、氷河期の寒く厳しい自然を生きていかなくてはならなかった、哀れな生き物の一つにすぎません。

日本には「いただきます」という素晴らしい言葉がありますね。しかし、現在ではスーパーでパック詰めのお肉などを買っていると、他の動物の命を頂いて生き延びているという残酷な現実をつい忘れがちです。

同じように、医療品や化粧品を使うときも、薬を飲んで病気を治したり、美しい肌を維持するための安全性を検証するために犠牲になったたくさんのマウスが商品の背後にいることを忘れてはならないと、そう思います。そして、そのようなおびただしい小さな命の犠牲が、人間によるテクノロジーによって解決できるのならば、こんな素晴らしいことはありません。

人間の動物に対する責任は、それらの犠牲に敬意を払い、無駄にその死を消費して暴利をむさぼらないということではないかと思います。人類がこんなことになる前に。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

ということで、仏教における三毒(貪・瞋・癡)にまつわるこの曲で今週は終わりたいと思います。

次回もバイオプリンティング技術について更に詳しくまとめたいと思います。

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