バイオプリンティング 幹細胞についてまとめてみました

前回は、バイオプリンティング技術について、皮膚や動物実験と絡めてまとめてみましたが、今回はそのバイオプリンティングに使用される幹細胞についてまとめてみようと思います。

なぜバイオプリンティング技術に幹細胞が使用されるかというと、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や、患者由来の幹細胞を活用することで、免疫拒否反応の出ない、その患者自身の細胞でできた臓器や皮膚を作るといった再生医療が可能になるためです。

それでは幹細胞というのはどのようなものなのでしょうか。最初に、細胞の分化からひもといてみたいと思います。

細胞の分化

人間の体は、一つの受精卵から発生したものです。目や口や鼻、脳や筋肉や内臓に至るまで、私たちの体は一つの受精卵が分裂して分化した結果出来上がったものです。そのため、受精卵は全ての細胞に分化する能力があるということができます。この能力を全能性(totipotency)といい、このような細胞を全能性細胞と言います。

全能性細胞である受精卵は、最初に以下のように分化することとなります。生物の授業に勉強しましたね(私はすっかり忘れていましたけど)。

一つの受精卵は、分裂により胞胚という中空のボール状の細胞塊となり、したがって内と外ができます。それが内胚葉外胚葉です。そして、その二つの細胞塊の間にさらに細胞塊を生じて、中胚葉ができます。

三胚葉の内胚葉、中胚葉、外胚葉は、以下のように分化していきます。特に、中胚葉は間葉とも呼ばれています。

三胚葉
・内胚葉:消化器官や呼吸器官 (胃の内膜、消化管、肺)
・中胚葉:骨、心筋、赤血球 (筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)=間葉とも言う
・外胚葉:神経や感覚器官 (表皮組織、神経系)

このように、一つの細胞が分業のために様々な専門職を持つ細胞に分化して、一つの大きな人体という社会を形成することとなります。まるで人間の社会と同じですね。

幹細胞とは?

細胞は、幹細胞という、自己複製して自身が様々な細胞に分化できる細胞と、そこから分化した体細胞があります。体細胞は分化した「結果」であるため、これ以上分化することはありません。

http://kansetsu-life.com/saisei/6_01.html

例えば、骨髄には

・造血幹細胞
・間葉系幹細胞
という幹細胞が存在しています。

造血幹細胞では、体細胞として赤血球、白血球,血小板などに分化することができます。

国立がんセンター

間葉系幹細胞では、体細胞として、先ほどの中胚葉性組織である骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞などに分化します。

しかし、これらの幹細胞は、前記の受精卵のように、全能性、つまり全ての細胞に分化できるというわけではありません。造血幹細胞は、血液に関する細胞のみ、間葉系幹細胞は間葉、即ち中胚葉細胞のみに分化します。このような細胞を体性幹細胞といいます。また、このように三胚葉の系統内で分化できる能力を多分化能(multipotency)といいます。

幹細胞というものは、自己複製して自身が様々な細胞に分化できる細胞ということでした。このような幹細胞の能力が今、再生医療に応用されているのです。

再生医療に使用されている幹細胞

幹細胞には、先ほどの体性幹細胞の他に、

(1)胚性幹細胞(ES細胞)
(2)iPS細胞
があります。

これらの細胞は、先ほどの体性幹細胞と違って、胚葉の系統を超えた分化が可能になります。
このように、三胚葉の垣根を越えた細胞系列に分化できる能力を多能性(pluripotency)といいます。

ES細胞は、受精卵後、胚盤胞の段階に発生した胚(内部細胞塊)より分離され、株化された幹細胞のことです。

iPS細胞は、皆さんご存じの通り、2006年に京都大学の山中伸弥教授により発明された幹細胞です。ES細胞は受精卵を用いますが、こちらは体細胞を用い、そこに多能性誘導因子の遺伝子をウイルスベクターで導入することにより作成されます。

島津製作所

ES細胞は受精卵を用いるため、倫理的な問題がありますが、iPS細胞は体細胞を用いているため、倫理的なタブーがなく、比較的作製が容易であるため、様々な分野で応用される見込みが高いと言われています。

もちろん、先ほど挙げた成体幹細胞も、上記の細胞に比べると多分化能は限定されますが、自己の幹細胞を治療に用いることができることから、現在、多くの臨床応用が進められています。

今週のまとめ

以下、まとめです。

分化能の種類
(1)全能性(totipotency):個体に存在する全ての細胞に分化して、一つの個体を形成することができる。

(2)多能性(pluripotency):全ての細胞に分化して一つの個体を形成することはできないが、胚葉の種類に関係なく分化することができる。

(3)多分化能(multipotency):胚葉の系統内の細胞にのみ分化できる。

幹細胞の種類
(1)ES細胞(多能性)

(2)iPS細胞(多能性)

(3)体性幹細胞(多分化能)

というわけで、バイオプリンティング技術および再生医療には欠かせない幹細胞、そしてその幹細胞とはどういうものかを今回はまとめてみました。
また、幹細胞は、例外なく皮膚にも存在しています。次回は皮膚の幹細胞についてまとめてみたいと思います。

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