アスタキサンチン、の前に抗酸化作用とは?
アスタリフトというと、あの赤のジェリーを思い浮かべますね。あの赤は、前回取り上げた富士フイルムの特許、特開2018-52879において細胞老化の有効成分として取り上げたアスタキサンチンという成分によるものです。
アスタキサンチンとは、エビ、カニ、オキアミや鮭などに蓄積されている赤色の色素で、トマトのリコペンやニンジンのβ-カロチンと同じカロテノイド(carotenoid)といわれる色素の一種です。
カロテノイドとは、動植物由来の黄色や橙、赤色といった色素の一種であり、ポリエンという分子内に二重結合と単結合が交互に並んだ構造の炭化水素を持つものを総称した物質です。下の図でいうと、薄く水色がかったところがポリエンになります。

カロテノイドのうち、炭素と水素原子のみで構成されるものはカロテン、炭素や水素原子に加えて酸素原子を含むものはキサントフィルと呼ばれています。カロテンというのはニンジン(carrot)から得られた不飽和炭化水素(ene)ということから、キサントフィルという名称は黄色い(xantho)葉(phyll)の色素にそれぞれ由来しています。アスタキサンチンは酸素分子を含んでいますので、キサントフィル類に分類されます。
もともと、野菜やフルーツには、紫外線による酸化に負けないために、抗酸化力のある成分がたくさん含まれています。それらの成分は総じてファイトトケミカル(phytochemical)と呼ばれています(ファイトケミカルのファイトは、fightではなくphytoであり、「植物」を意味します)。そのような、動植物に含まれているファイトケミカルの一つがカルテノイド類であり、アスタキサンチンというわけですね。
アスタキサンチンといえば、一般的に鮭やカニなどの海洋生物を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、製品として使用されているのは、ヘマトコッカス(Haematococcus pluvialis)という藻から抽出したものが多くを占めています。
このヘマトコッカスは、通常は緑色をしていますが、強いストレスを受けると抗酸化物質であるアスタキサンチンを体内にため込むようになります。そうすることで厳しい環境下で生存することができたのです。

https://modia.chitose-bio.com/articles/characteristics_of_haematococcus/
このようなアスタキサンチンの肌への抗酸化力は、β-カロテンの約10倍、コエンザイムQ10の約800倍、ビタミンEの約1000倍、ビタミンCの約6000倍にも達するとされています。
抗酸化作用とは、活性酸素による酸化を抑制する作用のことをいいます。今回は、アスタキサンチンの説明に入る前に、お肌や健康、またDNA障害を引き起こす、活性酸素やラジカルについてまとめてみたいと思います。
活性酸素とは?
活性酸素は、大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものを総称したものです。
一般的に4種類あり、
・ヒドロキシルラジカル
・過酸化水素
・一重項酸素
があります。これらはすべて酸素O2から派生して生成されるものです。
ラジカルとは?
まず、ラジカルというのは、不対電子をもつ分子や原子のことをいい、主に「・」を付けて表されます(そうでないものもあります。後述するO2などです)。
通常、原子は原子核を中心として、各電子軌道に2個の電子が対になった状態で存在しています。この電子が対になって収まっている状態が安定した状態なのですが、対になっていない電子もあります。これを不対電子といい、この不対電子をもつ分子や原子をフリーラジカルといいます。

ここで、酸素とはそもそもどういったものなのかを知るために、まず酸素の電子式を見てみましょう。
電子式というのは、最外殻電子を表したものです。最外殻電子とは一番外にある軌道であり、そのような電子が反応に関わっていますので、電子式を見ると反応に関わりそうな電子がどこにあるのかがわかります。
酸素原子の電子式は下記の通りです。不対電子が2つ有ることがわかりますね。これが自然で存在する酸素O2の形になると、O原子同士が結びつくため、
となります。赤丸が不対電子を表しています。酸素分子は、2個の不対電子を有しており、ラジカルが2つある(ビラジカル:biradical)いうことが言えます。
物質には、安定な状態におさまるという自然原則があります。その方が、エネルギーが少なくて良いからです。水が自然に高所から低地に流れるといったようなものです。
物質の電子軌道では、電子が対になっている状態が安定していますので、不対電子を持つフリーラジカルは、安定な状態になろうとします。その結果、他の物質の電子を奪ってしまうのです。
そして、奪われた物質も、不安定化するため今度はまた別の物質の電子を奪って・・・という連鎖反応を引き起こすこととなります。その連鎖反応を止めるために、不足した酸素を分け与える存在が抗酸化作用をもつ物質というわけです。さて、酸素というのはこのように不対電子が2つもあるために、
とても反応しやすく、いろいろな物質に結びつき、その結びついた物質の電子を自分のものとしてしまいます。これが酸化と呼ばれる現象です。
酸素分子はこのO分子同士が結合した形、O2が一番安定した形(基底状態)になります。私たちが吸っている空気に含まれているものですね。これを三重項酸素(3O2)と呼びます。三重項酸素自体は有害な活性物質ではないので、活性酸素のうちには含まれません。
しかし、その O2が電子を奪っていく、すなわち酸素自身が還元していく過程でできたものが、先ほどの
・ヒドロキシルラジカル
・過酸化水素
であり、これらが活性酸素と呼ばれます。

まず、酸素が1電子還元されると、スーパーオキシド(・O2-)となります。これは不対電子(・)をもつラジカル種であるため、スーパーオキシドアニオンラジカルとよばれます。
スーパーオキシドがさらにもう1電子還元されると、 O22-となり、これに H+が 2 個つくと過酸化水素(H2O2)になります。
そして、その過酸化水素がさらにもう1電子還元されると、O 原子と O 原子の結合が切れて、ヒドロキシルラジカル(・OH)と水酸化物イオン(OH-)になります。
一重項酸素とは?
また、上の酸化によって生成される3つの物質とは別に、基底状態の三重項酸素(3O2)が、紫外線などのエネルギーを受けて不安定な形になったものが一重項酸素(1O2)と呼ばれています。
三重項酸素では、外側の開いている軌道に電子が一つずつ入っています。電子というのは自転しており、右回りにスピンするもの(↑)と左回りにスピンするもの(↓)があるのですが、三重項酸素では、下の図を見てお分かりの通り、右回りにスピン(↑)するものが両側に入っています。


しかし、これに紫外線などの強いエネルギーを加えると、両側の電子のスピンが反対になった状態となり(↑↓)、これを励起一重項状態(1Σg)といいますが、その後、より安定した状態の励起一重項状態(1Δg)となります。これを一重項酸素と呼び、反対になったスピンが一つの電子対に収まり、片側に空の軌道を抱えるという形になります。

図より、左から三重項酸素、一重項酸素(1Δg)、一重項酸素(1Σg)の分子軌道になります。スピンの向きに注目してみてください。

一重項酸素は活性酸素の一種ですが、不対電子を持たないのでフリーラジカルではありません。しかし、空の軌道があって、そこに電子が入りやすいので、活性な酸素です。しかも、空になった電子軌道が電子を求めることにより強い酸化力を持っています。
一重項酸素と同様に、先ほど挙げた過酸化水素も不対電子を持たないため、フリーラジカルではありません。あくまでも、活性酸素のうち不対電子を持つもののみをフリーラジカルといいます。
活性酸素とフリーラジカルを取り除くには?
先ほどのスーパーオキシドアニオンラジカル(スーパーオキシド)、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素の3つは、体内の酵素で分解することができます。
それぞれの活性酸素は、細胞内に存在するスーパーオキシドディムスターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ、およびカタラーゼにより、体内で無害化することができます。
しかし、4つめの一重項酸素だけは、体内の酵素で無害化することができません。たいていの場合は、食物から取り入れたビタミンや、今回取り上げたかったアスタキサンチンなどのカロテノイドなどで取り除かれることとなります。そのため、野菜を食べるということは、この一重項酸素を取り除く上で非常に重要であるということが言えるでしょう。
まとめると、以下の通りになります。
ラジカルとは:不対電子をもつ分子や原子のこと。
活性酸素とラジカルは、以下によって生成される。
1.三重項酸素が電子を奪って(還元されて)発生するもの
三重項酸素3O2(ラジカル) → スーパーオキシド(ラジカル) → 過酸化水素 → ヒドロキシラジカル(ラジカル)
…体内の酵素で無害化される
2.三重項酸素が紫外線などのエネルギーを受けて発生するもの
三重項酸素3O2(ラジカル) → 一重項酸素1O2
…食物から取り入れられたカルテノイドやビタミンで取り除かれる
※三重項酸素(3O2)自体は、不対電子を持ちフリーラジカルではあるが、活性酸素ではない。


さて、長くなってしまいましたので、肌で実際に起きる酸化と、それに対するアスタキサンチンの抗酸化作用については次回まとめたいと思います。

コメントを残す